- 第1回 言葉にならないものを映像で伝えたい
- 第2回 シューレ大学が始まった頃
- 第3回 シューレ大学紹介ビデオが転機になった
- 第4回 容赦なく表現したい
- 第5回 映像をつくることは社会とかかわること
- 第6回 人と一緒に生きていきたい
第1回 言葉にならないものを映像で伝えたい
なぜ映像をつくるのか聞きました。
言葉で伝えきれないことを映像で伝えたい
――石本さんはどうして映像をつくりたいと思ったんですか?
何かを表現することは、映像をやる前からやりたかったことなんです。視覚的なイメージに惹かれるというのはありました。小さいころからアニメや漫画が好きだったし、写真*1もちょっと好きな気がするとか。
言葉でうまく表現できないというフラストレーションが日常的にあった。人と話すのはけっこう好きだけど*2、自分が思っていることは伝えきれない、表現し切れないと思っていた。そういった、言葉では伝えられないことを表現できるのが、映像だと思っているんです。
なんかこういう感じみたいな、言葉ではないもので共感できるものというのは、映画を観ていて感じていたから、自分もこういうものを作りたいと思った。感覚的なものなんだけど、言葉で表せないものだけど、引き込まれる。そういうのが良い、観たいと思っていました。
あとは、そもそも自分以外にも映像をやろうとする学生がいたということもあります。大学が始まった最初の年から、アドバイザーの羽仁未央さんが映像のワークショップ*3をやっていたり、他の学生がシューレ大学の紹介ビデオ*4を作ったりとかしていた。映像を作る基盤はまだそんなに整ってなかったけれども、ビデオカメラは少なくともあったし、編集ができる環境もありました。

自分の映像を冷静に観れなかった
――初めはどんな映像をつくるんですか?
最初につくったのは『温色』*5という作品なんですね。『温色』では、自分が見てしまう悪い夢やふさぎ込んでいる状態を視覚化したかったんです。悪い夢は理論的じゃないから、人に話しづらい。でも、どうしてもそれが頭に浮かんでしまうんだということを表現したかった。私の中にあらかじめ押し込めている気持ちがあって、それを出したいと思うけれど、出していいと思えない。人に見せるのが恥ずかしいとか、怖いとか、それを表現する術を知らないということがある。でも、そうやって気持ちを押し込めて押し込めて毎日生きていると、なんで生きているのかわからなくなっちゃう。だからとりあえずそれを出してあげたかった。
撮影から編集まで半年かけて一応できあがったんだけれども、その映像をあんまり好きになれなかったんです。冷静に観れなかった。何かの折にその映像をシューレ大の中で公開したときに、ただ恥ずかしいというだけではなくて、すごく嫌だと思って、目を覆いたくなってしまうような感じだった。
だけど、その後、上映会*6をやったとき、『温色』を久しぶりに観たらそんなに悪くないなと思えた。作る前に考えていた、自分自身の負の感情を描くことで、すかっとしたいという思いがつらぬけたな、と思えたんですね。今となっては『温色』は、自分にとって腑に落ちている映像になったなあ。

映像作品『温色』のホットケーキのシーン
無意識の内に自分の奥に押しやっちゃうものを映像にしたい
――『温色』もそうですが、石本さんの作品には「このままじゃ嫌だ!」と内側に溜め込んでいるものを吐き出そうとして、葛藤している人がでてくるように思います*7。そういうのは意識していますか?
意識している時もあるし、意識しなくてもそういう傾向はあるんじゃないのかなって気がする。もともと私はいろんなことを胸の内に溜め込みやすいという感じがある。だいぶ今の方が、数年前よりも溜め込む頻度は減ってきたんですけど。それは細かいことから大きいことまでいろいろあるんだと思う。普段、人と話していて、言いたいことが言えないというのもあるし、もっと根本的にこういうふうに生きたいのに生きられない、みたいな葛藤とか、いろいろあると思うんですけど。
私が映像をやり始めた入り口には、自分で無意識のうちについ奥に奥に押しやっちゃうものを、なんとか生かしてあげられないだろうかってことがあった。すごい有効利用したいって思っていて。だって人って、けっこうエネルギーがあるものじゃないかなって思う。そういうものを抱えたまま誰にも知られずに死んでいくのはやだなと思う。
私に限らず、たぶんその人だけしか知らない謎みたいなのを抱えて死んでいく人って多いと思うんだよね。なかなか本音を言わずに生きて、そのままおじさんになり、おじいさんになり死んでいく人とかもいると思う。私はそれが切ないことに思えてしまって、他人にもそういうふうにして欲しくないって思ったりもする。

<つづきます>
| 写真*1 | 石本は、友人がはじめた雑誌に毎月白黒写真を掲載したり、シューレ大学でも写真サークルを立ち上げ、白黒写真の紙焼きをするなど、けっこう写真に取り組んだ時期があった。 |
|---|---|
| 人と話すのはけっこう好きだけど*2 | 石本は時間があってもなくても、いろんな人とお茶に出かけては、紅茶やコーヒーをすすりながら、ひたむきに話をする。本人の「話したい」という気持ちが原動力ではあるが、結果的に多くの人が誘われて喜んでいる。 |
| 羽仁未央さんが映像のワークショップ*3 | マルチメディア・プロデューサーの羽仁さんには、シューレ大学開設当初、映像に関するいろいろなワークショップで、専門的なことを丁寧に教えていただいた。 |
| シューレ大学の紹介ビデオ*4 | 最新版のシューレ大学紹介ビデオはこちらで見れます。 |
| 『温色』*5 | 1人部屋で自分をもてあましている女性は、夢や妄想と現実のはざまで、ホットケーキの悪夢を見る。そののち外へ出て、壁に物を投げつける。 |
| 上映会*6 | 2006年7月、最初の作品『温色』から、最近の作品『ホリー・ガーデン』まで石本が監督をした7作品を一挙上映した。 |
| 葛藤している人がでてくるように思います*7 | 『温色』のガラス瓶を壁に叩きつける女性、『本心』(原作:よしもとばなな)の自分が大切にしていたものを手離すかもしれない時と向き合おうとする女性、『NUM HEAVY METARIC』の衝動を抑えられず道路や海岸を疾走する坊主、『ホリー・ガーデン』(原作:江國香織)の過去の自分や人との記憶を切り離すことも整理することもし切れず、煙草を吸って夜を明かす女性と、確かに葛藤する人たちばかりである。 |


